Japan Pavilion at the 57th International Art Exhibition - la Biennale di Venezia

Takahiro Iwasaki

Turned Upside Down, It’s a Forest

第57回 ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館

岩崎貴宏 逆さにすれば、森

展示概要

広島生まれ、広島在住の岩崎貴宏の個展。タオルや本、プラスチックゴミなど、身の回りのものを素材にした立体作品を7点、展示する。タオルの糸を引き出して小さな鉄塔をつくったり、本の栞からクレーンをつくったりするなど、細かい手仕事も岩崎の特徴である。こうした日常への小さな介入によって、例えば積み上げられたタオルを自然の山のように見せるという、東洋では伝統的に見られる「見立て」の手法を使っている。広島平和記念資料館には、原子爆弾によって一瞬にして変形させられた日用品が展示されているが、岩崎が日常的なものを素材に使うのは、こうしたモノからも影響を受けている。また、岩崎の「見立て」は、東洋の伝統的手法であるだけでなく、戦争の前後で都市のステータスを軍事都市から平和都市へ180°変化させた広島の歴史とも関係する。さらに、小さなものが、大きなものを変えるという岩崎の方法は、ミクロな原子の力が都市を消滅させた広島の原子爆弾の経験とも結びついている。

作品のモチーフは、厳島神社や、瀬戸内の海沿いにつくられた化学工場、海上のオイルリグなど、新旧含めた日本の海沿いの建造物である。新作である《リフレクション・モデル(テセウスの舟)》は、海面に反射する神社をモチーフとしたものだが、反射像が揺らぎ無くつくられているために、静止した一瞬を捉えた、非現実的な時空間を感じさせる。厳島神社は外力を受けたときに、意図的に一部壊れるようにつくることによって、外力を受け流し、建物の重要な部分を守るようにできている。作家はこのことに着目し、台風で壊れた様子を作品にした。受け流すという方法に日本的な自然との向き合い方が示されている。

本展では、原子力や資源開発などのエネルギー問題、戦後の経済の高度成長を支えながらも公害を引き起こした化学工場など、広島や瀬戸内海、そして、日本の中の周縁的な地域が共通して抱える問題に目を向けた作品を通じて、異なる視点からの日本像を示す。展覧会タイトルの「逆さにすれば、森」はヴェネチアの小説家ティツィアーノ・スカルパがヴェネチアについて書いた文章から取ったもので、ヴェネチアがラグーンに打たれた無数の木の杭の上につくられていることを詩的に示す言葉である。岩崎の作品群は、広島や日本の歴史と今日の状況に向き合いながら、スカルパがヴェネチアの路上で想像力の翼を広げたごとく、視点を変えることの大切さと喜びを示している。

鷲田めるろ(キュレーター)

クレジット

作家:岩崎貴宏
キュレーター:鷲田めるろ

主催:国際交流基金
伊東正伸、佐藤淳子、大平幸宏、杉江優里香
竹下潤、Maria Cristina Gasperini

現地コーディネーター:武藤春美

グラフィックデザイン:下田理恵
写真:木奥恵三
翻訳:ベンジャー桂

特別助成:公益財団法人石橋財団
協賛:株式会社資生堂、日産自動車株式会社
助成:公益財団法人テルモ生命科学芸術財団
協力:URANO